日本の経営/ジェームス・C・アベグレン

日本企業における変革を研究するに当たり、是非事前に読んでおきたいと思っていた一冊。

日本は、欧米的でもなく共産主義でもない第三の道を歩み、欧米以外の国で唯一工業国とも呼びうるまでになった。その原動力となった日本的経営の特徴として「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」の3点を著者は指摘した。個々のポイントを欧米的経営と比較すれば、日本的経営の方が欧米的経営に比べて非効率なのかもしれない。だが、日本的経営においては、3つの特徴が終身雇用制度を中心に整合させることで、欧米的経営にも勝るとも劣らない発展を遂げることに成功することができた。日本的経営を語る上では、欧米的価値観で物事を判断してはいけない。日本的経営をつかさどる3要素がいかに整合しているか、という観点で語らなくてはいけないのだと思った。

本書の中で日本的経営に関するキーワードについて、気づきがあったところを抜き出しておくことにする。

  • 終身雇用制度を採用している以上、採用された人は引退するまでその企業の終身の構成員となる。よって、企業は事実上その人の能力が不足していると判断する権利を放棄している。そのため、能力不足の従業員のための無駄なポストが増え、生産性が低下するデメリットがある
  • 日本の労働者の給与全体のうち、仕事の種類と勤務成績に左右される部分はごく一部でしかない。日本企業の報酬は大部分、生産の効率化という会社の目標とは直接関係ない要因で決まっている。このことにより、労働市場流動性は低下するし、成果は個人の成績ではなく集団の生産量で決まる。
  • 日本では、象徴的な指導者を通じて、権力が間接的に行使される傾向がある。
  • 上層部の管理職が細かく分かれているのは、従業員を降格したり解雇したりするのが極端に困難なためであり、賃金制度に柔軟性が欠けるので肩書きと地位で報いる必要があるためでもある。
  • 日本の管理組織は複雑であり、ポストが細かく分かれているが、機能面ではそれぞれの役割が明確になっていない。これらの要因が意思決定過程に与える影響は3つある。一つはほとんどすべての意思決定が何人もの会議で下されており、時間がかかる。第二に、情報伝達の経路が明確になっておらず、決定の伝達に何階層も通さなくてはいけない。第三に、おそらく最も重要な点だが、決定の責任が誰にあり、意思決定の誤りの責任が誰にあるのかを明確にすることがほとんど不可能になっている。
  • 工業化以前の組織構造と欧米の技術を融合させたために日本の産業が問題にぶつかっていることははっきりしている。だが、問題があるからといって、欧米のビジネスモデルに近づける方向で改革を進めることが解決策になるとは限らない。欧米と人間関係の制度が大きく違う国で工業化を進めるためには、それによって効率性が犠牲になると思えても、その国の習慣や方法をかなりの程度まで許容する必要があるだろう。工業化が成功して定着するのは、工業化以前の社会制度の継続性を維持する形で、その社会で基本になっている人間関係のパターンに基づき、そこから派生する形で変化が起こるときであろう。

従業員のコミットメントを高める、成長局面においては相対的に人件費が抑えられる等、日本的経営には日本的経営の良さがある。だから日本企業を変革していくには、以下のような点を考えていかなくてはいけないのだろう、と思った。

  1. その企業には日本的経営がどの程度浸透しているのか
  2. 日本的経営のどこに不整合が出ているのか。そしてそれはなぜか。
  3. 日本的経営を捨てるべきか、否か。そしてその理由はなぜか。

うーん、たぶんこんなものではないよな・・・これからしばらく、日本企業の変革にどっぷりつかって、この問題をじっくり考えていきたい。