V字回復の経営/三枝 匡
三枝氏の三部作の三冊目。ちなみに残りの2冊は「戦略プロフェッショナル」と「経営パワーの危機」。大学院の友人から勧められて読んだ本なのだが、この本は本当に面白い。三枝氏の実体験を元にしたケースだから、内容が非常にリアルで読んでいくうちに自然と引き込まれていってしまった。
三枝氏がこの物語の中で、企業変革を起こすためには以下のような変革のステップが必要だと説いている。
- 成行きのシナリオを描く
- 切迫感を抱く
- 原因を分析する
- 改革のシナリオを作る
- 戦略の意思決定をする
- 現場へ落としこむ
- 改革を実行する
- 成果を認知する
物語は上の8つのステップに沿って進んでいく。それぞれのステップでのタスクフォースの行動・思いがリアルに描かれているので、「もし自分がこの再生タスクフォースの中にいたら・・・」とつい感情移入してしまう。
本書を読んで気づいた、変革を実行する上でのTipsをいかにまとめておく。
- 変革に向けて社員を動かしていくためには、「社員の心に響く戦略」を作り上げることが必要
- 現実を直視する。社内で真実を語ろうとしない人は、それを言われて困る人。過去に問題を生じさせた人。今もその問題を避け用としている人。わかっていても力量が足りず何もできなかった人。処理を先延ばしした人。自分の残り年数を数えて楽をしたい人。
- 多くの企業は改革リーダーの人選を間違えて失敗する。政治性を持ち込む人、自分の身の安全を心配する人、会社が業績不振だというの週末に働くのを避けたがる人、外の世界を知らなさすぎる人。このような人を改革リーダーに選んではいけない。
- 戦略とはまだ実行していないことを決めるのだから「仮説」である。仮説の良し悪しはロジックで決める以外にないのだ
改革が総論で語られているうちは大多数が賛成する。それが各論に降りるに従い立場や考え方の違いが表面化し、あちこちで新旧価値観の戦いが始まる。この問題の根源は経営幹部の経営リテラシーに他ならない。変革に伴うリスクを正しく認識し、受け入れる。コトの成り行きを部下同士の妥協にゆだねたりせず、リスクを持ってトップダウンで変革を指示できる経営幹部が必要。
- 変革にはマイナスのモメンタムがつきもの。これによって生まれる混沌の時期をどう乗り越えるかが変革が成功するか失敗するかの分かれ道。リーダーが将来を予測し、決断し、皆に分かる言葉でそれを語り、不安と混沌の中を走りぬけなければならない。皆が将来を分かっていないときはリーダーは孤独だ。そしてそれはリーダーの宿命でもある。
- 「高い志」と「魂の伝授」この2つが経営改革をリードする上で最も大事なこと。
そして、巻末に記載されている実在の改革参加者たちが語る「変革成功要因」をまとめておく。
- 改革コンセプトへのこだわり:あるべき姿を描いたコンセプトに徹頭徹尾こだわる。
- 存在価値のない事業を捨てる覚悟:問題先送りの姿勢からの決別
- 戦略的思考と経営手法の創意工夫:徹底的に深く考え続け、創意工夫を持って打ち手を編み出し、自信を持って実行する
- 実行者による計画づくり:実行者が自分で計画を立てることにこだわる。当事者意識の醸成。実行者の深いコミットメント。「何が何でもやってやる」という気持ち。
- 実行フォローへの緻密な落とし込み:「がんばれ」の号令だけでは戦略は実体化しない。「武器」「道具」を作り、戦略の各レベルをつなぐためのフォローを欠かさない
- 経営トップの後押し:トップによる明確なコミットメント。必要な経営資源を惜しまない。
- 時間軸の明示:「2年」という具体的な期限設定を行うことによって、「おしりに火をつける」
- オープンでわかりやすい説明:会社の悪さ加減を赤裸々に示すことは、「現実直視」「強烈な反省」には不可欠
- 気骨の人事:日本企業的な年功序列にとらわれない、ドラスティックな人事により、新たなエリートを育成し、新たな事業機会を生み出すことにつながる。
- しっかり叱る:改革反対派に対して、明快な論理と説明に基づいた、明確な姿勢を打ち出す。
- ハンズオンによる実行:トップ経営陣が常に現場に目を配る
変革のステップについては、コッターの8ステップやレヴィンの変革のプロセス(解凍→移動→再凍結)等色々なバリエーションがあるが、大体の流れはどれも一緒。まず最初に現実を正しく認識し危機感を共有するプロセスが必要で、その上で戦略を策定し、現場に落とし込むステップを行う。その結果としてQuick Hit/Small Successを「狙って起こす」ことにより、変革を認知させて浸透させていくプロセスで締めくくる。
本書の巻末には「あなたの会社でもこうした症状が見られませんか?−不振事業の症状50」として、現実評価のポイントがまとめられている。おそらく三枝氏が過去の数多くの再生事例の中から、共通項として抽出したものなのだろう。自分の会社にあてはめてやってみると・・・変革の必要性が相当ありそうですね・・・・。